6.三つめの物件を買えたけど

気になる物件

売主様(後で知りましたがかなり変わったおじいさんで有名とのこと)の気まぐれで、”2000万円で売り出していた物件を3000万円じゃないと売らない”と言われたので、融資の審査をしてくれていた日本政策金融公庫の担当者にも事情を説明しお詫びしました。

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ことの顛末(てんまつ)をやり取りした仲介業者とのメールのコピーを提出して、この案件は不完全燃焼のうちに終了しました。

済んだことを嘆いていても仕方がないので”物件探しの日々”に戻りました。

いつものようにポータルサイトをネットサーフィンしていると1年ほど前から出ていた鉄骨造で1K×12戸(内8戸が空室)、築35年の中古アパートが値下げされているのに気付きました。

(私のように地方でエリアと構造を絞って見ていると物件数が60以下と少ないので、いちいちメモとかしていなくても値下げした物件がわかります)

1950万円。

いわゆる”さらし物件”というヤツです。

売りに出た頃すぐに勉強がてら現地に見に行ったのですが、40年ほど前に山の中腹に切り開かれた小さめの住宅地、行き止まりの坂道の途中にひっそりとたたずむその物件。

学生向けアパートの激戦区で、家賃下げ競争に敗れたのか蔦(つた)が絡まったお化け屋敷のような隣の全空アパートよりはマシですが、オーナーのやる気の無さがはっきりとわかる物件でした。

外から見えた一階の居室は6畳の和室、トイレ、バス一緒の3点ユニット、外壁には所々ひび割れがあり、洗濯機は共用部廊下に外置き。

大規模修繕(屋根と外壁の防水塗装など、数百万円の大規模な修繕)も新築時から一度も実施していないであろうことが一目瞭然です。

「この物件は少々値下げしても売れないだろうなあ・・・」

元付の仲介業者の担当者とは以前、挨拶を交わしたことがあるので連絡すると内見させてもらうことになりました。

8戸空いているので見放題です。

一年以上空いている部屋が多いのか、山の北側斜面で日照不足だからなのか、カビ臭いのでクロスはもちろん全部貼り替え、キッチンのクッションフロアも貼り替えが必要。

居室の湿った畳もすべて撤去してフローリングにしないと入居者は付かないでしょう。

キッチン、バス・トイレを含めルームクリーニングも気合が要りそうです。

内見させて頂く日の前日までに、近隣の地元不動産屋さんやすでに私の所有物件を管理して頂いている管理会社さんに当該物件の入居付け(空室8戸を満室にする)に要する期間を見積もってもらうと、どちらも「ズバリ、半年は必要」とのことでした。

内訳は”購入後の外回り大規模修繕と内装の大規模リノベーション工事で約2カ月、その他不具合発生も見込んで年始から3月までの繁忙期ですべて埋まるとは思えない。よって予備期間を考慮すると満室にするには約半年はかかる”との見立てでした。

地元の不動産屋さんは近隣の大学との連携が良いことを自慢していたし、昔ながらの”管理人のおじいちゃん”という感じなので”入居者付けに有利かも”と思い、「この物件を購入できた暁には、ぜひ管理をよろしくお願いいたします」と打診したところ「いいですよ」との回答を得ました。

揺れ動く

「中も外も、かなり手を入れないといけないのは売主様も御存知ですよね?」

仲介業者はうなずきました。

最初の売り出し価格は2450万円。

それが売れないから一回(2200万円)、二回と値下げして今の価格。

私が話に来なかったら1750万円まで下げる予定だったそうです。

現オーナーはもともと不動産賃貸事業はあまりやる気はなかったそうで付き合いのある銀行から任意売却の物件を買わされたとのこと。

ローンを完済できたタイミングで売りたかったらしいのですが、物件の状態と立地を考えると、とても売れそうにありません。

「1500万円なら融資付けに取り組みます」と仲介業者さんに伝えました。

少し押し戻されるのを想定して購入希望価格を伝えました。

仲介業者さんは売主と交渉、私はリフォーム代込みでなんとかしてくれそうな△△信用組合に資料を持ち込んで融資の審査を申し込みました。

一号物件の時の年配の担当者が異動になって若い担当者に代わりましたが、融通を利かせてくれそうな”切れ者”と拝察します。

リフォーム代の見積もりは、懇意にしている工務店の社長に内見の日時を伝えていたのでその時に現場を見ながら私の考えをざっと説明し、それに対してプロからの助言ももらったりしながら打ち合わせをしました。

三日後くらいに工務店の社長から届いた見積もり回答は500万円ほどでしたが、そこから省いたり追加したりしながら結局、415万円ほどに収まることになりました。

社長が、大工さんや塗装屋さんなどの職人さんを使う”個人事業主”で間接経費がほとんど不要なため、仕事は早くて丁寧なのに安い、まさに”早い!うまい! 安い!”の某牛丼チェーンのような工務店なのです。

二、三日して仲介業者から交渉結果が知らされました。

売主様としては1520万円でどうか、との回答でした。

入居者付け、リフォーム工事や出口戦略は大丈夫なのか等、色々と不安があったので少し返事を待ってもらうことにしました。

大家仲間や仲良くなっていた不動産屋の営業マンに聞くと、全員が「やめといたほうがいい」と言います。

この頃、私の頭は少し冷静さを失っていたかもしれません。

“物件を買いたい病”にもかかっていたでしょう。

なにしろ”高利回りの中古アパートをいかに短期間で買い進めることができるか”にかかっているのです。(今にして思えば”何がかかっているのか?”と突っこめる自分がいます。投資判断に”焦りは良くない”と今なら思えます。)

「今年も、もう半分過ぎた。この調子では今年はひとつも物件を買えずに終わるのでは?」という焦りと不安も冷静さを失わせていたのでしょう。

真夏の昼下がりの誓い

自宅から車で50分ほどの距離ですが物件の夜の状態や、雨の日の状態を見に行ったりしました。

35年前に学生寮のような感じで意気揚々と新築された12戸のアパートが不本意ながら朽ちていこうとしているのが忍びない・・・。

暑い8月の平日、昼下がりにそんな憐れんだ眼で古びたクリーム色の物件を坂の上から見ていました。

私はサラリーマン時代に、古くなった生産設備を再生する”オーバーホール”という作業をしていた時期がありますが、”手を入れるとまだまだ活躍できそうなモノを再生する”という作業に自分は喜びを感じる人間なのだな、とその時に気付きました。

しかし今私が買おうとしているのは”赤字発生マシーン”と化すかもしれない代物(しろもの)です。

感傷に浸って”ババ”を引くようでは「不動産投資家、失格」です。

とその時、当該アパートから自転車に二人乗りした女子大生が笑いながら坂をくだっていきました。

たしか二人とも県外から来ている近くの大学に通う二年生。

残りの入居者二名は社会人だったはずです。

ちなみに、このアパートの家賃は共益費二千円と水道代二千円を入れて合計二万円です。(各戸専用の量水器が無い築古アパートは赤字にならない程度の水道代を固定費として家賃と一緒に入居者に請求します。また水道局の量水器ではなく、アパート独自で設置した「参考メーター」を各戸に備えているアパートであれば、管理会社に毎月数値の変動を見てもらって入居者に請求してもらうやり方もできます。)

「あんな可愛らしい女子大生が洗濯機外置きの、このボロアパートに住んでいるのか・・・」

なんというたくましさ! 感動すら覚えました。

同時に妙な使命感が湧き上がってきて「よし!私がこのボロアパートを綺麗に再生してみせる!」と誓ったのでした。

Ready to go!

そこからは早いです。

仲介業者と売買契約と決済の日取りを打ち合わせて、工務店ともリフォーム日程を打合せました。

融資も無事、付きました。

リフォーム代、諸経費を含んだオーバーローンで15年、変動金利2.2%の2000万円。

しかも”切れ者”担当者が機転を利かせてくれて、翌年3月までの半年は金利支払いだけでよく、元本込みの返済は4月からにしてくれました。

4月までに入居率70%以上になれば持ち出しにならないことを考慮してくれたのです。

投資初心者の私には、「”元本支払いは半年後からにして下さい”と金融機関に要望する」いう発想はまったくありませんでした。

こうして2017年9月に三つめの物件を取得でき、取得と同時に大規模修繕に取り掛かかりました。

先の二物件よりも少し遠い物件となりましたが、400万円以上をかけるリフォームを見たいのもあってほぼ毎日物件に通い、物件の内外が新しく生まれ変わっていくさまを目を細めて見ていました。

これから次々と試練が降りかかることも知らずに・・・。

つづく


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