二年前にオーナーチェンジで購入した収益物件で「失踪事件」に遭遇したことは過去の記事でも何度か触れましたが、今回はもう少し詳しく書いてみたいと思います。
目 次
それは静かに始まった
2017年秋にオーナーチェンジで買った単身者向けアパートには、12戸中4戸しか入居者がいませんでした。
2人は大学生、1人は社会人、そして残りの1人が外国人の「技能実習生」です。
物件を購入した翌月、管理会社から送られてきた月次報告書を見ると技能実習生の欄が、家賃収入「ゼロ円」です。
管理会社に問い合わせると「滞納」とのこと。慌てて売買仲介業者の担当者に尋ねました。
売主に聞いてくれたところ、8月分まではきちんと払ってくれていたそうで9月分がまだ入金がないとのことです。
どうやら滞納が始まったタイミングで私がその物件を購入したようです。
「まさか、失踪者?!」
ニュースでよく「外国人技能実習生が失踪」ということを耳にしていましたが、まさか自分の身に起こるとは思いもしませんでした。
言われてみると思い当たる節がありました。
その部屋の前をいつ通っても生活感が感じられないのです。
ガスメーターを見ると閉栓されていました。
でも今頃はガスを使わない単身者もいますので、まさか「失踪者」とまでは考えませんでした。
しかし、えらいことになりました。
購入してしまったからには売主や売買仲介業者は基本的には関係ありません。
そして前オーナーは自主管理していましたから、私が新たに管理委託した管理会社が悪いわけでもありません。
もし、管理会社にこの件の対応を全面的に頼むなら結構な費用がかかることを覚悟しなければなりません。
いちばん安くあげる方法は?
ある弁護士事務所の無料相談で相談すると「相手が現れない可能性がほぼ100%の今回のようなケースで、時間が取れるようでしたら御自身で対応されるのも手ですよ」とアドバイスされました。
これも「大家業の勉強」と思い、自分で対処することにしました。
内容証明郵便にて催告書を送付
まず行うことは「催告書(さいこくしょ)」の送付なのですが、管理会社、弁護士、先輩大家、誰もが”3カ月は待つこと”と言います。
なんなんですかね、この3カ月縛りは!
過去の例から3カ月は督促(とくそく)にとどめておいた方が、あとの展開で有利とのことらしいのですが荷物は触(さわ)れない、家賃は入らない、3カ月はおとなしく待たなければ行動を起こせない、踏み倒された家賃は泣き寝入りと大家業は損な稼業です。
最寄りの大きめの郵便局に下記のような「催告書」を3通作成して持ち込み”内容証明郵便”で送ってもらいます。
郵便局側が文書内容を確認するのに30分くらいかかるので近くで時間を潰します。
私はどの部分かは忘れましたが一か所修正を命ぜられたので自宅に帰り、直してから3通プリントアウトして再度持ち込みました。
郵便局も裁判に使われる資料なのでかなり気を遣うとのことでした。
受取人 岡山市○区○○一丁目○○ ○○号室
○○ ○○ 殿
差出人 オーナーまたは法人の住所
○○会社○○○○ ○○ ○○
催告並びに通知書
貴殿は次の契約により私と賃貸借契約を締結し、私は
貴殿へ下記建物の引渡しをしたところ、平成29年9月分
から現在に至るまでの間、下記の契約に基づいた賃料の
総額○万○千円の支払いが滞納しております。
つきましては、本書面到達後7日以内に滞納賃料全額を
下記の振込先までお支払い頂けるよう催告致します。
なお、期日までにお支払いなき場合は貴殿との下記契約を
解除させていただきます。
賃貸建物 岡山県岡山市○○区○○一丁目○○ ○○号室
契約日 平成27年11月○○日 月額賃料 ○万○千円
振込先 ○○銀行 ○○支店
普通 ○○○○○○○○
名義 ○○会社○○○○ ○○ ○○
調査開始
催告書を送ると同時に、失踪者の現況確認を行います。
具体的には現居住地を調べに最寄りの市役所に出向き尋ねます。
すると今回のケースでは「該当者なし」と結果が出ました。
「他県で”在留カード”を取得されているようなのでそちらに聞いてみられたらどうですか?」とのこと。
早速、在留カードのコピーに書かれている住所の自治体に電話します。
岡山からは遠いので郵便での所在証明書のやり取りの方法を聞いてその通りに書類を揃えて送りました。
失踪対象物件の謄本、私の運転免許証、失踪者の賃貸借契約書、建物の売買契約書、在留カードなどのコピー、およびネットからダウンロードして記入した住民票記載事項証明交付請求書。
もちろん、速達料金分の切手を貼った返信用封筒も同封します。
2~3日して返ってきた封筒には送った書類一式と調査結果を書いた紙が入っていました。
「ご申請の住所・氏名では該当者が見当たりません」
御礼かたがた先方に電話すると担当者から衝撃の言葉が。
「記載されている住所で在留カードを発行した記録が無かったです」
偽造したのでしょうか。
もう、こうなったら早く「強制執行」までもっていくしかありません。
裁判所に提出する調査書に記入するため、現入居者に失踪者の部屋はいつ頃まで生活している感があったか、他住人と交流はあったみたいか、などのインタビューもしました。
訴状作成
調査が大体終わると最寄りの簡易裁判所に出向き、教えてもらいながら「訴状」を鉛筆で手書きして作成します。
書記官が丁寧に教えてくれます。
今回のケースは、対象失踪者の所在がまったくわからないし、就業先も不明、連帯保証人はじめなにもかも不明ですから、訴状と並行して有無を言わせず「公示送達」の手続きに入ります。
「公示送達」とは、”所在不明の相手に対して訴状が届いたことにしてくれる”法的な手続きのことです。
裁判所の通りに面した箇所の掲示板に張り出され、決められた期限内に本人が申し出てこなければ相手不在で裁判が執り行われて、裁判にも現れなければ「原告」の勝訴が確定します。
勝訴判決
2018年2月中旬。期日がきたので簡易裁判所の指定法廷に出廷しました。
被告側は空席です。
裁判長と私との間でいくつかの簡単な応答があってから「原告側勝訴」で結審しました。
約一カ月後に判決文が出来上がるので、そこからまた次の手続きに移ります。
前の晩にインターネットで失踪者について調べていると「陳述書が必要」との記事を見たので、慌てて夜中に作りました。
本件に関しては、結果的にはなくてもよかった書類なのですが、苦労して作ったからなのか裁判長が証拠として受け取ってくれました。
本記事の末尾に参考までに載せておきます。
地方裁判所にて民事執行申立書を提出する
判決からおよそ一カ月後に簡易裁判所から判決文が出来た旨の連絡がありました。
郵送も可能とのことでしたが、とにかく早く”コト”を前に進めたい私は受け取りに出向き、そのまま同じ建屋の階上にある地方裁判所に向かいました。
そこで先ほど階下の簡易裁判所で受け取った「執行文付き勝訴判決正本(せいほん)」を提示して「民事執行申請書」を書いて出しました。
そして同じ階の金銭保管室に行き、8万円の「予納金」を納めました。
これは民事執行に関わる手続きに必要なお金を前払いするものです。
余れば後日、切手で返金されます。
2週間以内に執行官がオーナー、業者と現地に行く
決められた日に、裁判所指定の処分執行業者とオーナー、そして執行官立会いのもと処分費用の見積もり作業を行いました。
オーナーとして一番心配だった”失踪者の荷物をどこかに保管しておかなければならないのか?”を執行官に聞いてみました。
すると、「今回は”処分”でいきましょう」と言ってくれました!
メチャクチャ有り難かったです。保管が必要ならまた保管費用が発生するので。
この処分費用のための予納金も払いました。9万円です。
断行手続き、鍵交換
断行日になり、執行官立会いのもとで片付け業者が荷物を運び出します。
物によってはオーナーに要るか要らないか尋ねますので、オーナーがその場で判断して回答します。
私の場合は必要なものはありませんでした。すべて処分してくれるように依頼しました。失踪者が使っていたベッド、衣類が入ったチェスト、調味料、台所用品、トイレ・バス用品、洗濯機、腐った食品が入った冷蔵庫・・・。
一刻も早く、この件を片付けてリフォームして新しい「優良入居者」に入ってもらいたい一心です。
一時間ほどで運び出しが終わると、執行官が「もう鍵交換してもいいですよ」と言い残して処分業者とともに帰っていきました。
駆けつけてくれた管理会社の管理担当者が鍵交換をやったことがあるとのことだったので、私がホームセンターであらかじめ買っておいた玄関用ドアノブを二人で交換作業して、一連の「失踪事件」が決着を見ました。
まとめ
どの工程もかなり迅速におこなったつもりですが、それでも発覚してから半年近くかかりました。
かかった費用は、踏み倒された家賃6カ月分を入れて「27万円」でした。(原状回復費用は含まず)
相手が途中で現れたら、また対応が変わってくるでしょう。(途中から弁護士にお願いするのは、引き受けてくれるかどうかわからないと聞いたことがありますので、不安な方は最初から弁護士にお願いしておいたほうが得策です)
そして、相手が実在する場合はこの事例のようにオーナー自らが対応するのは難しいと思われるので、弁護士あるいは司法書士に代理人業務として委託することになり費用がもっと嵩(かさ)みます。
このような事態を避けるために、入居者にはちゃんとした連帯保証人と家賃保証会社の両方を付けることが重要になります。
また収益物件の購入を検討する際にはレントロールを仲介業者からもらうと思いますが、面倒くさがらずに滞納者の有無を確認することが肝要です。
良心的な売買仲介業者ならこちらから聞く前に、なにか問題のある入居者がいることを重要な情報として前もって教えてくれます。
終わり
添付資料:陳述書
甲○○号証
事件番号 平成○○年(ハ)第○○○○号
建物明渡等請求事件
原 告 ○○会社○○○○
被 告 ○○ ○○
陳 述 書
平成30年2月○○日
岡山簡易裁判所民事○○係 御中
原告 印
代表者
- 物件の購入
訴状別紙 物件目録記載の不動産は、平成29年9月○○日に訴外○○会社○○○○から原告が購入し、賃貸人たる地位を承継したものであります。
- 被告が失踪していることに気付く
本物件購入後、管理会社から被告の平成29年10月分家賃未納の報告を受けた際、初めて被告が当該物件に居住していないことに気付きました。管理会社が賃貸借契約書に記載の連帯保証人や友人に連絡を試みましたがいずれも不調に終わりました。
前所有者である訴外○○会社○○○○によりますと、平成29年8月分の家賃までは支払われていたとのことですので、平成29年8月以降に失踪したようです。
- 提訴
三カ月分の家賃が滞納となり、勤務先も不明で被告と連絡が取れず、また催告書も返送されてきたので平成29年11月○○日に提訴しました。
- 一刻も早く建物を明け渡してほしい
本物件は、決められた賃料を支払ってくれる入居者に賃貸するために購入したものであります。賃貸借契約不履行を続ける被告には一刻も早く未払い分の賃料を支払い、荷物とともに退去して頂きたいです。
以上
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